夫を突然の事故で亡くした時、私の世界は色を失いました。現実感がなく、ただ涙だけが枯れることなく流れ続ける日々。通夜までの数日間、自宅に安置された夫のそばで、私は抜け殻のようになっていました。ひっきりなしに訪れる弔問客。皆、一様に「ご愁傷様です」「お辛いでしょう」と、決まりきったお悔やみの言葉をかけてくれます。その気持ちはありがたいのですが、正直なところ、どの言葉も私の心には響きませんでした。そんな中、夫の大学時代の親友であるAさんが、弔問に訪れてくれました。彼は、夫の枕元で静かに手を合わせた後、私のそばに座り、こう言いました。「何も、言う言葉が見つからないよ。俺も、あいつがいなくなったなんて、まだ信じられない。だから、今は何も言わない。ただ、少しだけ、そばにいさせてくれないか」。そして彼は、本当に何も言わず、ただ静かに、私の隣に三十分ほど座っていました。時折、お茶をすする音だけが響く、沈黙の時間。しかし、その沈黙は、私にとって少しも気まずいものではありませんでした。むしろ、これまで誰にも言えなかった、心の奥底にある絶望や怒り、虚無感といった、ぐちゃぐちゃの感情を、彼がその沈黙で、すべて受け止めてくれているような、不思議な安心感に包まれていました。ありきたりな慰めの言葉や、安易な励ましは、時として、悲しみに蓋をしろと言われているように感じてしまうことがあります。しかし、Aさんの「何も言わない」という姿勢は、「今は、無理に言葉にしなくていいんだよ」「ただ悲しんでいいんだよ」と、私の感情を丸ごと肯定してくれているようでした。彼が帰った後、私は久しぶりに、少しだけ食事が喉を通りました。あの時、Aさんがかけてくれた「何も言わない」という言葉。それは、私が受け取った、何百ものお悔やみの言葉の中で、最も心に深く染み渡り、私を絶望の淵から掬い上げてくれた、忘れられない一言となったのです。弔問とは、言葉を尽くすことではない。ただ、相手の悲しみに、静かに寄り添うことなのだと、私はこの経験を通して、身をもって知りました。
私が弔問で救われたあの一言