訃報を受け、特に故人と親しい間柄であった場合、「一刻も早く駆けつけて、お顔を見てお別れをしたい」「ご遺族の力になりたい」という気持ちから、通夜の前にご自宅などへ弔問に伺いたい、と考える方もいるでしょう。その深いお気持ちは非常に尊いものですが、通夜前の弔問は、ご遺族にとって最も慌ただしく、精神的にも不安定な時期であるため、細心の注意と配慮が求められます。まず、最も重要な原則は「必ず事前にご遺族の許可を得る」ということです。突然訪問することは、絶対にしてはいけません。ご遺族は、葬儀社との打ち合わせや、親族への連絡、様々な手続きに追われています。また、心の準備ができていないうちに弔問客を迎えるのは、大きな負担となり得ます。電話で「もしご迷惑でなければ、少しだけお顔を見にお伺いしてもよろしいでしょうか」と、相手の都合を第一に尋ねましょう。もし、ご遺族から「今は少し取り込んでおりますので」といったニュアンスの返答があった場合は、潔く引き下がり、通夜や告別式に参列するのが賢明です。弔問の許可を得られたら、服装は喪服ではなく「平服」で伺います。黒や紺、グレーといった地味な色の普段着を選びましょう。これは、「訃報を聞いて、取り急ぎ駆けつけました」という気持ちを表すためです。喪服を着用していくと、不幸を予期していたかのような印象を与えてしまうため、かえって失礼にあたります。香典は、通夜か告別式の際に改めて渡すのが一般的ですが、もし持参する場合は準備しておきます。ご自宅に到着したら、玄関先で改めてお悔やみを述べ、中に招き入れられたら、故人の枕元で静かに手を合わせます。この時、ご遺族から促されない限り、ご遺体の顔を覆う白布を自ら取るようなことはしてはいけません。そして、何よりも大切なのが「長居をしない」ということです。ご遺族を気遣う言葉を二言三言交わしたら、「何かお手伝いできることがあれば、いつでもお声がけください」と伝え、10分から15分程度で速やかに失礼するのがマナーです。通夜前の弔問は、故人を思う気持ちだけでなく、ご遺族の状況を最大限に慮る、高度な思いやりが試される場なのです。